13.Siemens-Elema AB
Servo Ventilator 900C
1.特徴(図III-13-1)
 Servo-900はサーボ制御によって、吸気バルブや呼気バルブを調節する機構を実用化した最初の人工呼吸器である。開発は1960年代に始まり、1971年には出荷が開始された。1976年には、900Bに発展してSIMVが付加された。さらに1980年には900Cが開発され、PCVやPSVが導入され、SIMVも改良された。長い歴史を経たが、現在でも標準機として市販されている。さらに、麻酔用人工呼吸器としての応用が可能な唯一のモデルである。成人から未熟児までを守備範囲と歌っているが、未熟児には定常流+圧換気方式ほどの妥当性はない。未熟児〜新生児への適応は麻酔仕様に限定される。なお、Servo-900Dは、900CのSIMV制御ボードや小児用のメーター処理回路を省いた廉価版である。
2.性能
1)利用できるモード
 Volume Control(=sCMV)
 Volume Control+SIGH
 SIMV+PSV
 SIMV
 PCV
 PSV
 CPAP(ディマンド方式)
 マニュアル換気(オプション)
---------------------------------
 +PEEP
 
2)基本データー
システム作動間隔時間...5〜200 ms
   (10ms*60/Breath Rate setting)
最大吸気ガス流量
  強制換気............120 LPM
  PSV.................120 LPM
吸気ガススルーレート... 20 L/s
最大強制換気数.........120 BPM
最大SIMV回数........... 40 BPM
 
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説(図III-13-2a,b,c)
 Servo ventilatorの名前はサーボ制御"feed back servo control" という回路技術用語に由来している。これは、出力情報(実測値)を基準値と比較して、その誤差情報を入力に戻して(feed back)、出力値が基準値に等しくなるように制御する技術である。Servo-900の構成は、流量・圧センサーと制御回路、ならびにバルブ駆動部であるが、制御回路にはマイクロプロセッサーは使用されていない。論理判断回路はハードウェアーにより構成され、制御ボードはデジタルとアナログの混成回路で成り立つ。
2)機械的機構の特徴
 吸気バルブ・呼気バルブともにシリコンゴムチューブをツメで開閉する機構である。耐圧性が低く、低圧駆動になる。しかしこの機構とガスリザーバーベローにより麻酔テーブルや気化器を経由したガス駆動も可能になっている。通常のサーボバルブではバルブの潤滑オイルが麻酔ガスにより劣化、変質する。
3)ガス流量計測(図III-13-3)
 吸気側・呼気側ともに、フラッグの偏位による歪を半導体ストレインゲージにより電気的信号に変換する。吸気側・呼気側とも同じ部品であるが、呼気側は水滴凝集を防止する目的で約60度に加温されている。このセンサーはアナログ方式なので、一個ごとに人手によって較正されている。もし、吸気側と呼気側とで入れ替わると再較正が必要になる。この部品は非常にデリケートであり、また、高価である。
4)吸気バルブ(図III-13-4)
 シリコン製のゴム管"silicone rubber tube"(=バルブチューブ)を蟹のはさみ状のツメ(=Lever arm)で閉じたり開いたりすることでチューブ内を通過する流量が調節される。ステッパーモーター"Stepper motor"がカム"Cam"を駆動し、それにつれてツメが開閉される。 誤差信号に基づいて、方向信号とVCO(電圧調整式発振器;パルス幅は一定であるが、電圧信号により発振周波数が変わる)の周波数が変わる。このパルスによりステッパーは順方向や逆方向に駆動される。
5)呼気バルブ(図III-13-5)
 吸気側と同じ方式であるが、駆動機構が異なる。誤差信号(アナログ信号)は、PWM変調器(パルス周波数は一定であるが電圧に応じてパルスの幅が変化する)により励起時間に変換される。パルス幅が広い程、コイルを駆動する電力は大きくなる。
4.ニューマティック回路(図III-13-6a,b,c)
 本体上部の中には、ふいごをバネで加圧した構造のリザーバー(=Bellowsと呼ばれている)がある。これは吸気ガスを貯蔵する機能を持っている。3入力(笑気/酸素あるいは圧縮空気/酸素)、もしくは2入力(圧縮空気/酸素)ブレンダーで酸素濃度を調節してから、(専用の気化器を経由し)ガス充填ユニットを通じて、リザーバーを充填する。リザーバーの充填には高圧ガス駆動と低圧ガス駆動の両方式が可能である。前者は本来の人工呼吸用で、後者は麻酔用(専用気化器をバイパスさせない時)である。使用するガス充填ユニット"Gas supply unit"には、目的に応じて(a)mechanical、(b)mechanicl with magnets、(c)electronicの3仕様が用意されている。低圧駆動の場合はリザーバーの充填により内圧は変動するが、充填ガス流量は一定なので、気化ガス濃度は安定する。吸気ガス流量の変化は吸気バルブのサーボ機構が吸収する。麻酔器テーブルからの混合ガスによる低圧ガス駆動も可能である。しかし低圧ガス駆動では機械の限界性能を発揮できない。ちなみにパネルの動作圧(PRESET WORKING PRESSURE)調節のレバーはリザーバーのバネ圧を調節し、リザーバー圧を変える。高圧ガス駆動の場合は充填ガス流量は変動し、リザーバー内圧の変動は生じない。リザーバー内のガスは吸気バルブで流量調整されて吸気ガスになる。流量情報(Volume Contr.)や圧情報(PSV,PCV,CPAP)により吸気バルブの開閉が調整される。バルブチューブは頻回に開閉される上に、低圧とはいえ比較的高い圧が架かっているので、どうしても消耗部品になる。WORKING PRESSUREの設定は高い方がより多い吸気ガス流量を供給できるが、チューブの寿命の点から言えば、低く設定するのが望ましい。呼気バルブは吸気バルブとほぼ同じ構造で、圧情報(PEEP/CPAP)で開閉が制御される。バルブ自体に逆流防止機能がないので、さらに逆流防止弁"non-return valve"が必要になる。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
 呼気バルブ直前の圧変化による圧トリガー方式である。呼気弁の逆流防止弁の働きが低下するとミストリガーする。PEEPを少しかけた方が実質感度は上昇する。
2)Volume Control
 CMVであるが、吸気中に陰圧になれば吸気ガスを増量し設定量以上のディマンドに応える。しかし、増量機構のレスポンスは良くない。
3)SIMV
 固定時間方式である。自発換気相ではデマンドフローやPSVが供給される。トリガーウィンドーの長さは、60/fIPPV秒である。
4)PSV
 吸気終了認識条件は、吸気流量がピーク値の75%以下になった時、気道内圧がPSV圧+3cm以上になった時、CMVサイクル時間(=60/fIPPV秒)の80%にPSV吸気時間が達した時、である。75%値が用いられているので、Servo900CのPSVは他の機器のそれに比して吸気は早めに終了する傾向がある。
5)PCV(Pressurre Controlled Ventilation)
 これは圧サイクル換気(pressure cycle ventilation)と誤解されやすいが、設定された時間、設定された圧を吸気時に加える別のモードである。(patient or time trigger,pressure regulated ventilation,time cycle)Siemens社は、特にIRV+PCVをSIRV(Servo Inverse Ratio Ventilation)と命名して重症呼吸管理に推奨している。
6)マニュアル換気機構(Manual ventilation unit)
 オプションで付加すれば、バッグを手で揉んで換気する事ができる。おもに麻酔導入時に使用するもので、停電時・配管の異常時や機械故障時には使用できない。機械が自動的にバッグ内圧を4cmHOになるように調節するので、半閉鎖式麻酔器のように、ポップオフ弁"pop off valve"でバッグの膨らみ具合を調整する必要がない。バッグ内のガスを患者は自由に吸えるが、吸気抵抗が大きいので(3〜6cmHO)マニュアル補助なしに自発呼吸だけで換気するのは勧められない。
7)SIGH
 CONTROLモードのみに選択できる。100呼吸ごとに一回換気量の二倍の容量の換気を入れる。
8)Pause & Hold
 これらのボタンを使って、End Inspiratory Pause pressureやAuto-PEEPの測定ができる。
9)入力/出力
 インターフェースを組み込めば、圧、流量、コントロール信号を出力できる。また、外部機器によりコントロールできる。二台のサーボを使ってDLVもできる。なお、殆どの信号はアナログである。
10)麻酔仕様
 専用の気化器と3入力ブレンダーを付ければ麻酔器としても使用できる。
11)バックアップ機能
 無呼吸バックアップ機能はない。
12)PEEP compensator(PEEP補正)
 呼気バルブのサーボ機構により、呼気ガス流量に関わらず正確なPEEP/CPAPが維持される。しかし、レスポンスは良くない。
6.操作体系(図III-13-1)
 他の人工呼吸器と異なり、まず分時換気量を設定する。次に呼吸数を設定する。これにより、CMV(SIMVの強制換気)の1回換気量、吸気時間、SIMVのトリガーウィンドー時間が決定される。そして希望のモードを選択する。さらに必要に応じてPEEP、INS.PRESS.LEVEL(=PSVレベル、PCVレベルの設定になる)、UPPER PRESSURE LIMIT、SIMV回数、等を設定する。必要があればI:E比、EIP時間を変更する。最後に呼気の分時換気量や酸素濃度のアラームを設定する。
7.モニター、アラーム機能
@呼気分時換気量;上限、下限、ならび未設定アラーム。
A気道内圧上限;警報と同時に吸気は強制終了する。
B無呼吸;15秒間トリガーが認識されない時。
C酸素濃度;上限、下限。
Dその他;電源、ガス供給に異常のある場合。
8.ディスプレー機能
 吸気換気量、呼気換気量、呼気分時換気量、ピーク圧、ポーズ圧、平均気道内圧、酸素濃度、呼吸数のうち、1項目のみ数字で表示可能。
9.患者回路構成、加湿器
 F&P MR-428/MR-310、もしくはBenette Cascade型加温加湿器が選択できる。
10.日常のメンテナンス
 呼吸回路と呼気系の部品の滅菌が必要である。呼気の圧トランスデューサー用のバクテリアフィルターはディスポである。呼気フロートランスデューサーはエチルアルコールに一時間浸し、注意深く洗浄する。この部品は非常にデリケートなので、ガス流路内に物理的な力が加わって損傷しないように気をつける。他の部品も消毒液に一時間程つける。その後、全ての部品をオートクレイブにかけ、乾燥と滅菌を行う。この間は人工呼吸器は使用できない。呼気系の滅菌を避けるためにディスポのバクテリアフィルターを呼気弁直前に設置する手もある。
11.定期点検
1)吸気系
 吸気系の部品は1000時間ごと、もしくは半年ごとに洗浄、滅菌する。この際(呼気用の部品も含めて)、バクテリアフィルター4個、ベローズ、シリコーンラバーバルブ、呼気フロートランスデューサーのメッシュワイヤーネット、は新しいものと交換する。
2)酸素センサー
 酸素濃度測定用の燃料電池は消耗品なので定期的に交換が必要である。交換後はキャリブレーションが必要である。
3)キャリブレーション
 1000時間ごとのオーバーホール、もしくは完全クリーニングの後には、下記のキャリブレーションや点検が必要である。
@気道内圧、呼気分時換気量、メーターの機械的ゼロ調整   
A吸気、呼気のフロートランスデューサーのバランス調整、ゲイン調整
B吸気、呼気の圧トランスデューサーのゼロ調節、ゲイン調整
C酸素濃度計のゼロ調整、ゲイン調整
Dリークのチェック、各種アラームのチェック
12.欠点
1)高性能、高機能な分だけ、維持に手間と暇、そしてコストを要求する。
2)パネルの配置やデザインはユーザー本位の設計でない。設計技術者の独断を感じさせる点が多い。
3)CMVでは、吸気時間が4段階しか選択できないので、自発呼吸パターンに同調させるのが困難である。つまり吸気ガス流量を任意の値に設定できない。(呼吸数を変化させると一応可能になるが、他の設定に不具合を生じる。)
 
Servo Ventilator 300, 300A
1.特徴(図III-13-10)
 Siemens Elema AB社は、いつの時代でもトップクラスの人工呼吸器を提供し続けてきたスウェーデンの企業である。電子回路によるサーボ制御を人工呼吸器に応用した先駆者でもあり(Servo-900, 1971)、PSV、PCVという今日では不可欠の圧換気モードを実用化した会社でもある(Servo-900C, 1980)。1991年には、PRVC(Pressure Regulated Volume Control)、VS(Volume Support)、SIMV(Press.Contr.)+PSVなどの新しい換気モードを提唱した上で、さらに、従来は新生児モードにおいて不可能と言われたトリガー機構や、定常流に頼らないディマンド機構を実用化したServo-300を発売した。1997年にはServo-300Aにマイナーチェンジし、Control modeとSupport modeが自動的に切り替わる機能(Automode)が追加された。同年にはオプションのServo Screen 390によって、弱点であったグラフィック機能も強化された。
2.性能
1)利用できるモード
 Volume Control(=Control/Assist)
 Pressure Control(=PCV)
 SIMV(Vol.Contr.)+PSV          
 SIMV(Press.Contr.)+PSV
 PRVC(Pressure Regulated Volume Control)
 VS(Volume Support)
 PSV/CPAP
---------------------------------
 +PEEP
 +Automode
 
2)基本データー
システム作動間隔時間... ? ms
最大吸気ガス流量
  強制換気............200 LPM
  PSV.................200 LPM
吸気ガススルーレート...  L/s
最大強制換気数.........150 BPM
最大SIMV回数........... 40 BPM
 
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説(図III-13-11a,b)
 「基準値と実測値とを比較してその差を小さくするようにサーボ制御する」基本思想は変わらない。制御の複雑化とともに、Servo-900のようなハードウェアーによる論理回路には限界を生じ、MPUを使用したソフトウェアーによる制御へと変貌している。しかし、中央処理システムによらず、それぞれにMPUを搭載するお互いに独立した制御ボードを連携し、各ボード間はアナログ信号で接続するシステムになっている。これはデジタル器機が持つ特有の危険性に配慮したうえの設計で、MPUの暴走でシステム全体が停止するのを防ぐ。アナログ方式の方が外部機器へのインターフェースが容易である。
2)機械的機構の特徴
 Servo-900では、麻酔ガス濃度を安定化させる為に、気化器には一定のガス流量を流す必要があり、リザーバーベローを要した。Servo-300には、現時点では麻酔仕様は用意されていない。将来の拡張用として、もう1スロット分のガス入力が用意されているが、今のところ、オプションは準備されていない。
3)ガス流量計測
a)吸気側
 ガスモジュール内に圧差型のセンサーが内蔵されている。
b)呼気側
 呼気側はServo-900と同じ構造である。センサーは加温されているが、水滴や薬剤、分泌物の凝集は精度に影響する。
4)吸気バルブ(図III-13-12)
 吸気バルブは、電磁力"electromagnetic motor"によりピストン"piston"を駆動し、膜式バルブ"membrane valve"を押して、ガス通路の開閉を調節する構造になっている。吸気バルブと駆動回路は、フローコントロール・ユニットとしてモジュール化されている。
5)呼気バルブ
 基本構造はServo-900とあまり変更されていない。バルブアームの断面形状は丸くなりラバーチューブが破れ難くなった。
4.ニューマティック回路(図III-13-13)
 O/Air入力(1)(2)より供給されたガスは、バクテリアフィルターを通過し、その後それぞれ専用のガスモジュールユニット(3)に導かれる。これらのユニットは脱着可能になっている。ユニットはふたつ設けられているが、さらにオプション用のスロットもある。(笑気ガス用?)ここで吸気ガス流量の調整と酸素濃度の調節が行われ、(4)で混合される。吸気ガスは、途中、圧トランスデューサー(5)と安全弁"safety valve"(6)、酸素濃度センサー(7)を経由して患者に送られる。安全弁は120cmHO以上に気道内圧が上昇した場合、または、気道圧上限"upper pressure limit"で設した圧より5cmHO以上上昇した場合、に開く。呼気ガスはフロートランスデューサー(9)や圧トランスデューサー(10)で測定された後、呼気弁(11)で PEEP/CPAP圧がつくられ、逆止弁"non return valve"(12)を経て放出される。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式(図III-13-14)
 流量方式"Flow trigger"と圧/流量方式"Flow/Pressure trigger"のふたつの方式が選べる。"Trig.sensitivity"のつまみを緑色もしくは赤色の領域にすれば"Flow trigger"で、数字の領域にすれば"Pressure trigger"になる。
2)Flow trigger
 トリガーレベルはつまみの位置(緑色〜赤色の領域)によって変化する。通常は緑色の領域を使用する。赤色の領域では感度が敏感すぎてself-triggeringの可能性がある。下記の範囲で選択できる。
 
 adult   0.7〜2.0  l/min.
 pediatric 0.3〜1.0  l/min.
 neonate  0.17〜0.5 l/min.
 
3)Pressure trigger
 バイアス流(Bias flow)を超える吸気努力が検出され(INS.FLOW-EXP.FLOW>BIAS FLOW)、しかもトリガーレベル以上の圧変化を与えた時に吸気の開始と認識する圧/流量トリガー方式である。
4)Volume control(図III-13-15)
 このモードは"sCMV"に相当するが、自発呼吸への同調性の改善が改良点である。Siemens Elema社はこれをVolume Control Ventilation(VCV)と呼んでいる。図の番号に沿って説明する。@吸気努力がなければ設定どおりのTI、TP、TEで呼吸サイクルが構成される。(=Time cycle) C吸気トリガーがあればこれに同期して強制換気が送られる。A吸気時間(TI)の間に、強い吸気があり、PEEPレベルより-2cmHOまで陰圧になれば、ディマンドガスが供給される。つまり、TIの間であれば設定量以上の流量は自由に吸える。Bもし途中で吸気流量が低下してきて、しかも一回換気量が達成できていない時は、一回換気量が達成されるまで設定された流量を供給する。(=Volume cycle)D吸気途中に上限圧"upper pressure limit"に達すれば吸気は強制終了する。
5)Pressure control(図III-13-16)
 このモードは、PCVに相当する。Patient triggerもしくはTime triggerで吸気が開始され、Time cycleで吸気は終了する。図のように設定された、TI、TP、TEでサイクルが構成される。吸気時間にはPressure Control above PEEPで設定された圧が呼吸回路に加えられる。図について、@吸気流量パターンはふつう暫減波形になる。吸気の終わりには、A吸気流量は、0LPMに近くなることもあるし、B0LPMの場合もある。Cもし気道圧上限"upper pressure limit"にかかると即座に吸気は終了する。D患者の吸気努力に同期することもできる。 吸気圧がPressure Control Level above PEEPを+20cmHO以上超えた場合、吸気は強制解放される。
6)SIMV(Volume control)+PSV(図III-13-17)
 このモードが通常のSIMV+PSVに相当する。強制換気にはVolume controlと同じようにディマンドに応じる能力がある。SIMVは固定時間方式で、トリガーウィンドーは60/設定呼吸回数(秒)である。
7)SIMV(Pressure Control)+PSV (図III-13-18)
 このモードでは、強制換気はPCVで入る。@〜Dの説明はSIMV(Vol.Contr.)+PSVと同じである。なお、患者の安全のために吸気圧がPressure Control Level above PEEPを+20cmHO以上になると吸気が強制終了する。
8)PRVC(Pressure Regurated Volume Control)(図III-13-19)
 これはPCVの利点を生かしたまま、従量式の換気と同等の効果を達成する新モードで、PCV圧を自動調整して換気量の恒常化を図っている。ピーク気道内圧を低くできる従量式換気モードの変種である。これはDrager社EvitaのPressure Limitation Ventilationと目的は同じくするが、Evita4ではAutoFlowに発展改良して採用されている。このモードは、PCVよりさらに強制的で、より換気能力の乏しい患者向けである。吸気トリガーがあれば、これに同期して、なければ、一定の間隔で換気が開始される。PCV圧の決定は次の手順で行われる。通常状態では、吸気の終了ごとに次の演算式で新しい吸気圧を演算する。
Pcalc=Pin use*TVp/TVm
 Pcalc:計算された圧
 Pin use:使用した吸気圧
 Pnext:新しく設定される吸気圧
 TVp:設定された一回換気量
 TVm:実測された吸気量
Pcalc値は9秒の時定数を持つLow Pass Filterに掛けられ、PCV圧制御用の新しい基準圧(Pnext)になる。つまり、一呼吸ごとに、実測コンプライアンスに基づいて、必要とされるPCV圧"Pressure Control Level"が決定される。圧の変化は最大3cmHOに制限される。
 最終的には、一回換気量が一定値に収束される。具体的には次のプロトコールで制御が行われる。図に沿って説明する。
@最初の換気は10cmHOの圧でおこなわれる。このテスト換気で次のPCV圧(Pcalc)が演算されるが、この値はそのままPnextとして用いられる。(フィルター処理なし) A引き続く3呼吸もフィルター処理なしで決定されるが、次の式のように、圧の変化量の75%値が用いられる。
 Pnext=Pin use+0.75*(Pcalc-Pin use)
    =0.25*Pin use + 0.75*Pcalc
ここまでがテスト換気手順になる。
B5呼吸目より、フィルター処理が行われ、通常の手順で、必要とする換気圧(Pnext)を再設定する。圧の変化範囲はPEEPレベルより5cmHO below Upper Pressure Limitまでである。安全を考慮して、気道圧上限"Upper Pressure Limit"は可能な限り低く設定する。Cに規定されているように呼吸時間は、設定されたTIとTEに固定されている。この点がVolume Supportとの違いである。Dは圧が安定して換気量も設定値が維持されているのを示している。Eでは換気量が設定値より実測値の方が多くなり換気圧を減らしている過程を示している。もし患者回路が吸引操作等ではずされた時は、もう一度テスト換気手順@が始まる。
(7)VS(Volume Support)(図III-13-20)
 これも基本はPSVであるが、分時換気量を安定化させる為に、PRVCと同様の手順で新しいPSVレベル(=Volume Supportレベル)を自動的に設定する。ただし18秒の時定数を持つフィルターが用いられる。 PRVCと異なり、呼吸数は患者に依存しているので実測呼吸数に応じてPcalcの演算式が切換わる。設定呼吸数より実測呼吸が多い場合はPRVCと同じである。少ない場合は次の式になる。
Pcalc=Pin use*MVp/MVm
 MVp:分時換気量の設定値
 MVm:吸気分時換気量の実測値
@最初のテスト換気は10cmHOの圧でおこなわれる。A必要変化量の75%の圧で続く3呼吸を換気する。ここまではフィルター処理をしない。Bその後は通常の手順で設定する。圧が変化する範囲はPEEPレベルよりUpper Pressure Limit - 5cmHOまでである。一回の変化量は3cmHO以下である。またPnextは1.5*Pin useを越えない。Cでは換気量が設定値より実測値の方が多くなっているので、次の換気圧を減らしていく過程を示している。
Dこのモードは基本的にはPSVと同じ方式なので、吸気トリガーがなければ換気が始まらない。患者は自由な吸気時間と呼吸数と呼気時間が許されている。
Eもし、呼吸数が少なくなりF無呼吸アラームにかかれば、G自動的にアラームを鳴らしてPRVCに切替わり、患者の分時換気量を確保する。アラームを手動でリセットすると再びVSに戻る。
 患者の吸気量が設定一回換気量の175%になれば強制的に吸気相が終了する。患者回路が吸引操作等で はずされた時は、もう一度テスト換気より開始する。
 
10)PSV/CPAP
 PSVの吸気終了認識条件は「吸気流量がピーク流量の5%以下」と変更されている。これはServo-900CのPSVが早期に終了しすぎるという批判に対する改良である。なお、1呼吸サイクル(=60/設定呼吸回数 秒)の80%に吸気時間が達した時、もしくは気道内圧がpreset Pressure Control Level above PEEPを+20cmHO以上超えて圧が急上昇した時もPSVは強制終了する。
11)バックアップ機能
 無呼吸バックアップの機能はない。
12)auto-PEEP/EIP測定
 Pause & Holdボタンを使用してauto-PEEPやEIP圧"end inspiratory pause pressure"の測定ができる。
13)出力/入力
 外部機器により、Servo-300をコントロールできる。また、データーや信号を出力できる。また、二台のServo-300を使用してDLVもできる。
14)Automode
 Servo-300Aで利用できる。Servo-300にはPRVC, Volume Control, Pressure Controlの3つの調節呼吸(強制換気)モードが用意されているが、Servo-300AではPRVC/Support, Volume Control/Support, Pressure Control/Supportの3モードに変更されている。これらの3モードを選択した際に、AutomodeスイッチをONにすると2回連続してトリガーすればcontrol modeよりsupport modeに切り替わる。support modeにおいて一定の時間(Adult ; 12 sec., pediatric ; 8sec., neonate ; 5sec.)トリガーがなければ自動的にcontrol modeに替わる。AutomodeをOFFにした際は、Control modeのままでSupport modeには切り替わらないので、Servo-300と同じになる。

選択したモード

該当する Control mode

該当するSupport mode

PRVC/Support

  PRVC

 Volume Support

Volume Control/Support

  Volume control

 Volume Support

Pressure Control/Support
 

  Pressure control
 

 Pressure Support
 








 
PRVC/Supportでは、PRVCの最終の換気圧がそのままVolume Supportの換気圧の初期値になる。Volume Control/Supportでは、最終のVolume ControlでのEIP圧がVolume Supportの換気圧の初期値になる。Pressure Control/Supportでは、それぞれの設定圧が換気圧になる。
6.操作体系(図III-13-21)
 図のようにパネルは項目ごとに8ヶの部分にグループ分けされている。
1)設定法
 モードを選択した後、項目ごとに順に設定していく方法と、SPG(Set Parameter Guide)を使う方法とがある。後者では、"Mode selector"で希望のモードを選んで、そこのパッド"touch pad"を押すと、設定を要する項目の横にある黄色のライトが点滅してガイドしてくれる。このガイドに従って設定すべき項目を順番に設定していくと必要な設定が完了する仕組みになっている。終了すると最後に信号音が二回なる。
2)約束ごと
 つまみには約束ごとがあり、それを列記してみると。
@つまみの横の黄色のランプはそこがアクティブであることを表示している。
A赤いつまみは、患者の安全性に重大な影響があるので、注意して設定する。
Bつまみの目盛りの赤字で書かれた領域は患者に危険を及ぼす可能性のある設定なので注意する。
C緑で書かれた数字は、初期設定の参考値である。
Dつまみによってはノブ"knob"を押さないと回せないように範囲が作られている。
E"Pause & Hold"や"Reset"等のつまみは、指を離すとバネで自動的にもどる仕組みになっている。
3)その他
a)一回換気量
 換気量の設定つまみは直接一回換気量の数字を変えるのではなく、(目盛りはないが、)分時換気量を設定するつまみになっている。したがってCMV回数"CMV freq."を動かすと一回換気量"Tidal Vol."の表示値も変化する。
b)吸気立ち上げ時間
 強制換気での、吸気立ち上げ時間"Insp rise time%"が選択できる。
7.モニター、アラーム機能
1)アラームシステム
 アラームシステムはMPUのコントロール下にあるが、予備として、さらにアナログ回路によるアラームシステムも用意されている。アナログシステムはMPUの故障時にのみ作動する。アラーム音は小さいピーピー音から、だんだん大きく鳴るようになっている。アラームの原因は電光掲示板のようにディスプレー"Alarm & Messages display"に表示される。平常時には、このディスプレーには酸素濃度が表示されている。
2)患者の呼吸状態のモニター
 以下の項目が数値表示される。
a)呼気分時換気量(上限、下限)
b)気道内圧(上限、下限)
c)無呼吸; neonate   10 秒
     pediatric   15 秒
     adult    20 秒
d)O濃度(上限、下限)
3)呼吸回路、設定
a)リーク(吸気-呼気流量差)
 10秒以上のリークが分時換気量の25%を超えたときで、絶対値が次の値より大きいとき
 adult/pediatric   0.3 l/min.
 neonate     0.03 l/min.
b)回路チューブ"Check tubings alarm"(吸気・呼気圧差)
 吸気・呼気側の圧トランスデューサーの圧差が25%以上あり、しかも絶対値で5cmHO以上の差が20秒以上継続する時。
c)オーバーレンジ"Overrange"
 設定ミスで、吸気ガス流量が設定可能範囲を超えたときにメッセージが表示される。
4)その他
 Oセンサーはずれ、ガス配管の供給圧、バッテリー、テクニカル(機械内部の技術上のトラブルについて表示する。しかしほとんどは技術サービスでなければ解決できない)
8.ディスプレー機能
 ディスプレーもグループごとに設けられている。ここの表示にも約束があり、数字のディスプレーでは、赤色の数字は患者の実測値を表し、緑色の数字は設定値を表す。
 バーグラフの表示は赤色が吸気側の実測値、緑色が呼気側の実測値を表示する。
1)気道圧の実測値と以下の気道内圧の設定項目の値がバーグラフで表示される。
 気道圧上限"Upper Pressure Limit"
 PCVレベル"Press.Cotr.Level above PEEP"
 PSVレベル"Press.Supp.Level above PEEP"
 PEEP
 トリガー感度"Trig.sens. below PEEP"
 吸気と呼気の分時換気量"volume"
 分時換気量のアラームレベル
2)また、次の項目が数字で表示される。
 ピーク圧"Peak pressure"
 平均圧"Mean pressure"
 吸気ポーズ圧"Pause pressure"
 呼気終末圧"End.Exp.pressure"
 実測呼吸数"Mesured freq."
 呼吸時間"Breath cycle time"
 吸気時間"Insp.period"
 吸気流量"Insp.flow"
 設定一回換気量"Tidal volume(machine)"
 設定分時換気量"Minute volume(machine)"
 実測吸気換気量"Insp.tidal volume"
 実測呼気換気量"Exp.tidal volume"
 実測分時換気量"Exp.minute volume"
3)その他
 電光掲示板が設けられていて、アラーム内容やメッセージがここに表示される。通常は酸素濃度が表示されている。
4)グラフィックディスプレー(図III-13-22)
 オプションのServo Screen 390を装備するとグラフィックディスプレーに、1〜4波形同時表示、数値表示、トレンド、ETCO2(オプションのCO2アナライザー装備時)、等を選択して表示できる。
9.患者回路構成、加湿器
 F&Pの加温加湿器が標準でついてくる。
10.日常のメンテナンス
1)呼吸回路
 呼吸回路、呼気側の部品、は患者ごとに交換、洗浄、滅菌する。呼気のフロートランスデューサーはServo-900と同じ扱いをする。具体的な方法はマニュアルを参照。
2)フィルター
 呼気の圧トランスデューサー用のバクテリアフィルターはディスポであるので患者ごとに新品に交換する。
3)その他
 呼気側のフロートランスデューサーはエチルアルコールに一時間浸し注意深く洗浄する。この部品は非常にデリケートなので損傷しやすい。また、ガス通路内に物理的な力が加わらないように気をつける。他の部品は消毒液に1時間程つける。その後、全ての部品をオートクレイブにかけ、乾燥と滅菌を行う。当然、この間は人工呼吸器は使用できない。
11.定期点検
1)1000時間
 吸気系の部品は1000時間ごと、もしくは半年ごとに洗浄、滅菌する。この際、呼気用の部品も含めて、バクテリアフィルター4個、ベローズ、シリコーンラバーバルブ、呼気フロートランスデューサーのメッシュワイヤーネット、はディスポなので新しいものと交換する。
2)3000時間もしくは1年以内
 吸気系の部品を交換もしくは滅菌する。具体的な方法はマニュアルを参照すること。ちなみにOとAirのガスモジュール内のバクテリアフィルターも新しいものに交換する。ノズルユニット"Nozzle unit"内の吸気バルブのO-リングやバルブ膜も交換する。酸素濃度測定用の燃料電池は消耗品なので定期的に交換が必要である。交換後は較正が必要である。交換部品のリストを次に示す。
3)定期調整
 3000時間ごとに各種トランスデューサーの較正をする。調節するトリマー"Trimmer"は図のとおりである。マニュアルに従って調節する。現実的には、技術サービスか、MEが行う。
12.欠点
1)操作体系が複雑で、慣れを要求される。
2)ディスプレー機能も中途半端で判読が難しい。
 
 
 
 
図III-13-1          900cの外観(操作パネル)
図III-13-2a         サーボ制御の概念
図III-13-2b         900c全体でのサーボ制御概念
図III-13-2c         900cの制御回路の構成
図III-13-3          900cのガス流量計
図III-13-4          900cの 吸気バルブ
図III-13-5          900cの呼気バルブ
図III-13-6a         900cのリザーバーの構造
図III-13-6b         900cのリザーバーの構造・側面
図III-13-6c         900cのガス供給ユニット
図III-13-10         300Aの外観
図III-13-11a         300, 300Aの制御機構の概略
図III-13-11b         300, 300Aの制御機構の詳細
図III-13-12         300, 300Aの吸気バルブとガスモジュールユニット
図III-13-13         300, 300Aのニューマティック回路
図III-13-14         300, 300Aのトリガーの設定
図III-13-15         Volume Controlの概念
図III-13-16         Pressure Control
図III-13-17         SIMV(volume control)+PSV
図III-13-18         SIMV(pressure control)+PSV
図III-13-19         PRVC
図III-13-20         VS
図III-13-21         300Aの操作パネル
図III-13-22         Servo Screen 390の表示例
 
図III-13-
図III-13-
図III-13-
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